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パリ指南

その街に暮らす人々の素顔を見てみたいなら、メトロやトラムに乗るのは有効な手段のひとつだ。ただし、有名スポットを数珠繋ぎに結ぶ「観光路線」では、その効果は半減する。京都の市バス205系統の車内が地図アプリを操る異国の旅行者で溢れていたとすれば、姉妹都市パリにおいてもそれは十分あり得る話だ。

パリのメトロにおける「観光路線」は、凱旋門からルーヴル美術館を通ってバスティーユへ至る1号線と、東駅からサンジェルマン・デ・プレを通ってモンパルナスへ抜ける4号線だ。ここはひとつ違うルートを使ってみよう。ちょっと時間はかかるかもしれないが、遠回りこそ旅の醍醐味なのだから。

あなたがもし凱旋門にいて、ロベール・ドアノーの写真で有名なパリ市庁舎に行きたいなら、お決まりの1号線ではなく、北に大きく迂回する2号線を使ってみよう。途中から地上へ出て高架を走るので、文字どおりパリジャンの暮らしを車窓から「覗き見」することができる。下町モンマルトルのふもとを走り抜ける車内で、あなたは普段着の乗客たちに出会うことだろう。

やがて焼売のにおいが漂って来たら、そこはチャイナタウンで有名なベルヴィルだ。降車して11号線に乗り換えよう。距離が短く地味な路線だが、沿線の駅には一見の価値がある。たとえばアール・ゼ・メティエ駅の構内は、ジュール・ヴェルヌの小説に登場する潜水艦のような、レトロフューチャーな装飾が見所だ。ここまで来れば、目的のパリ市庁舎もそう遠くない。

人々が列を作って並んでいるのを見れば、あなたは秩序の街トーキョーにいることを実感するだろう。前を歩く男性があなたのためにドアを押さえて待っていてくれたら、あなたは紳士の街ロンドンにいることを実感するだろう。わたしは、メトロの車内で思い思いに過ごす人々を見て、パリにいることを実感する。

政治的演説をしようが、熱い抱擁を交わそうが、それを横目でチラチラ見ようが、パリジャンは基本おかまいなしだ。あなたがパリ初心者だからと言って、どう振る舞うべきかなどと心配する必要はまったくない。あなたはあなたのしたいことをすれば良いのだ。

さあ、準備は整っただろうか。自由の街パリへ出掛けよう。